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007/Altar and Sacrifice


 白薔薇隊、それは女王に仕える兵士の部隊。

 この白薔薇隊の兵士達の武装衣は特徴的で、頭には陣笠と鳥を模した鉄の仮面を被り、腰には白い革製の貞操帯をつけている。紋章は薔薇の花。白薔薇なので当たり前か。
 更に特徴的な物が白薔薇隊の剣が刃に薬を満たす作りになっている。獣や人に斬りつけると斬りつけた所から麻痺する。痛みすらもだ。薬の量が多ければ意識を飛ばして眠らせる。
 それがこの剣、慈悲の一撃、ミゼリコードである。
 なぜ、このような作りをしている剣を携えている部隊を作ったのかは、死に間際だけでも楽をさせてやろうという考え方なのだろう。業を背負っている、この土地の考え方が私にはよくわからない。
 そんな部隊を指揮しているのはヴィクトリア隊長である。

 「ジナヴラ、命令だ」

 隊長の冷たい声が二人しかいない部屋を凍らせた。
 ヴィクトリア隊長は銀色の金属製の仮面を被っている。仮面の形は鳥のフクロウを模したような形に繊細な草花の模様を彫った職人の技巧が光る逸品だ。それに紺色のコートに軍服を着ている。仮名の後頭部からは青い長いリボンが垂れている。
 顔は見えない。顔を知る者は私しかいない。だが、仮面の下の表情は何となく、私には想像ができる。

「ジナヴラ、ジェーン・ドゥの心臓を取ってこい」

「姉上……いや……、隊長、それは」

 動揺を隠せなかった。隊長の背後には大きい窓が並び、窓から射し込む光が逆光で隊長を影に包みこんでいる。

「それは……出来ない」

 振り絞って出た言葉がこれだった。
 同胞の、しかも友人の心臓を取って来いと言われ、「はい」と言えるだろうか? いや、無い。どんなに頭がイカれた奴でも躊躇はするはずだ。心があるなら。一度、木造の床を見てから、冷たい仮面を見た。

「出来ない?」

 鉄仮面は私の方に向いている。鉄仮面の手は腰にぶら下げている鞘から剣を抜き出し、丁度、私の胸に指した。

「姉である私の命令は絶対だ」
「出来ない」

 姉はジリジリと私に詰め寄り、私の胸に剣を当てた。私は白い革製の胸当てをつけていなかったので剣の鋭く冷たい硬さが制服の上から伝わった。私は両手で優しく手の平が傷つかないように剣を掴んだ。
 鉄の鳥は日の光を冷たく返す。剣を持つ手は固い。

「友の心臓を奪うぐらいなら、私のにしてくれ」

 剣を掴む手が強くなった。このまま剣を引いたら、手のひらが斬れるぐらいに。
 引き金を引く音が部屋に響いた。このミゼリコードと言う剣は引き金を引くと剣についているシリンダーの中に入っている液剤が刃に伝わせてから使う。逆に引き金を引かない時、相手は苦しむ事になる。
 目の前の鉄の鳥は何も言わず、こちらを見ている。微動だにしない。
 手も。私は目を閉じ、覚悟を決めた。これなら出来ると。
 両手で掴んだ剣から温かい水と冷たい水が伝ったのをこの手に感じ取った。胸に冷たい異物が服と肌を越えて骨肉を鋭くなぞった。

「ジナヴラ、お前は祭壇者だ」

 鉄の鳥が言葉を発した同時に、私は片手で剣の刃を持ちながら、膝をつき、前に倒れ込んだ。前に倒れ込んだおかげで剣がさらに深く刺さる。目の前が霞む。
 倒れた私を鉄の鳥は冷たく見下ろす。差し込んでくる光が淡くも私に刺さる。
 鉄の鳥は私の体から剣を引き抜いた。冷たく硬い鋭い異物が生温くなり、引き抜いた所の感覚が残る。引き抜いた所の隙間が空気に触れて傷口が冷たく残る。

「私達は業によって、生きながらえている」
 
 鉄の鳥はゆっくりと私の元へかがみ、自分が斬り刺した場所に手をつっこんだ。

「っ……!」

 中の物を探すようにかき混ぜられ、湿った音が響いた。

 気持ち悪い。

 声を出したつもりでいたが、聞こえていないのか出せていなかったのか鉄の鳥はお構いなしだった。ミゼリコードの薬のおかげでか、痛みは感じなかった。慈悲とは何なのだろうか。

(姉は最初から私のを取る気でいたのか。いや、私がお願いした事だから当たり前か)
(これなら、どうか、これで……)

 私の体の中に入っている手の動きが止まり、ゆっくりと引き抜いた。私は霞む目を精一杯見開いた。鉄の鳥の真っ赤に染まった手には何も残っていなかった。

「ハァ……ハァ……」
「あ……! あぁ……!」

 喋りたいが声にならない。
 鉄の鳥は立ち上がった。ミゼリコードを赤く染まった右手に持ち、引き金を引く。刃についた血は溶液によって洗い流され、私の開けられた傷口に薬を垂らした。姉である鉄の鳥はまた、私を見下ろしてこう言い放った。

「これがあなたの業の形だよ」

 朦朧としている中、聞き取れた言葉はそれだけだった。私は霞んでいく姉を見た後、目を瞑った。
 
#AlaterandSacrifice